【コラム】AIが就職先や結婚相手を決める未来に幸せはあるのか

 技術の進歩は、文化に影響を与えることがある。

 当たり前のことではあるが、比較的新しい現象であると捉えられることはまだ多い。

 しかし、例えば写真の登場は、西洋絵画に大きな影響を与えた。写真が1820年代に広まると、それまでさまざまな絵画の体系の中でも、突出して写実性を追求してきた西洋絵画は深刻なアイデンティティー危機に陥った。写実性だけを追求するのであれば、絵画はもう写真に太刀打ちできないことは明白であった。

 私たちは、この問題を笑い飛ばすことはできないだろう。問題の規模と水準は違えど、これは現在議論されている技術的特異点、すなわち人工知能(AI)が人類の知的レベルを超えてしまうのではないかという懸念と同根である。

 自分よりずっと優れた存在が身近にあるとき、それとどう付き合っていくのかは、私たちが常に考え続けなければならない問題である。例えば、ものを移動させる手段を考えるとき、現時点で私たちが体を鍛える意味はない。飛行機やトラックを使った方がずっと安価に素早く遠くまで、ものを運ぶことができる。

 棋理(きり。囲碁や将棋の原理や法則)に迫りたいと考えている人は、自分で将棋について考えるよりも、AIが分かるエンジニアになった方がずっと真理に到達できる可能性が高まるだろう。現時点で、チェスも将棋も、AIの方がはるかに人間よりも高い棋力に到達している。

 問題はこれらの能力をどこまで外部化してよいかだろう。

 就職先を決めてくれと言ってくる学生はここ10年で確実に増えた。理由はいろいろあるだろう。統計的にはともかく、体感的には悪化する一方の台所事情の中で育ててもらって、就職で失敗したら親に顔向けできないと言う学生もいるし、短年度離職をするとキャリアダウン転職しかできないとおびえる学生もいる。失敗は悪いことだとたたき込まれてきたので、模範解答を見てからでないとなかなか腰を上げられない学生もいれば、自分より知見を持っている誰かに正解を示してもらうのが効率的だと考えている学生もいる。

 世代的な問題か、私はたとえ失敗しても、自分の人生は自分で決めていくのが面白いのではないかと思うが、上述した学生たちの意見が一つの考え方であることは確かだろう。間違っているわけでもない。しかし、この考え方が高進し、かつAIの知見が集積していくと、どこかの時点で(そう遠い先の話ではない)就職先や結婚相手は、自分で見つけるのではなく、AIにマッチングしてもらった方が、離職率や離婚率を下げられる日が来る。

 離職や離婚をマイナスに捉えるのはどうかと思うが、面倒な事態であることは間違いないので、なるべく避けるような行動を選択するとしたら、自分で決めずにAIにお伺いを立てるのが最適行動である。

 私たちは、これが良いことなのかどうか、真剣に考えなければならないだろう。どうせならばより良い社会を目指すべきだし、時間的資源や物質的資源も無駄にしないにしくはない。しかし、この最適化行動が、人から失敗する自由を奪うのだとしたら、人は本当に幸せになれるのだろうか。

 この事態と向き合うときに、写真に対峙(たいじ)した芸術家の行動は、一つのヒントになると思うのである。マネもモネもルノアールも、(それまでほぼ禁忌のように扱われていた)筆致が分かる描き方をし、戸外でも制作を行い、筆触分割による鮮やかで明るい絵画を残した。これがピカソらのキュービズムになると、単一の絵画の中に複数の視点を織り込み再構成したり(前から見た形と、後ろから見た形を一つの画面の中に入れてしまったり)、マティスらのフォービズムでは、写実から全く離れた鮮烈な色を用いるといった技法に結実する。確かに、当時のカメラにはできなかったこと、人間の画家にしか表現できなかったことである。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部開設準備室副室長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ビッグデータの罠」(新潮社)など。


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