ブドウ栽培からワイナリー創業まで支援 「かみのやまワインの郷プロジェクト」に注目!!

 国内で収穫されたブドウを醸造した国産ワインが、国内外で高い評価を受けている。若者のアルコール離れが進む中、ワインやスパークリングワインの国内消費量も伸びている。消費者の嗜好が多様化するにつれ、安全安心で高品質な国産ワインの需要は今後も高まると予想されるが、原料となる国産ブドウの確保が課題となっている。良いワインの醸造には良いブドウが欠かせないからだ。

 ワインは一般的に、「ブドウの栽培、収穫、発酵、熟成、瓶詰め」の工程で造られる。そしてブドウ栽培には、日照時間、昼夜の寒暖差、水はけの良さ、風通しなど、生育に適合した風土と経験が必要だ。ブドウ栽培は奥が深く、同一品種を同じ畑で育てても、栽培場所が数メートル離れるだけで香りや糖度が変わる。ブドウの苗を植えてから収穫までには数年かかり、さらに発酵、熟成を経たワインの評価には長い年月が必要となる。そんな難しいブドウ栽培に試行錯誤しながら挑み、魅力的なワインを生み出している、ある地域の取り組みをご紹介しよう。

 日本の主なワイン生産地のひとつとして挙げられる山形県。なかでも上山(かみのやま)市は、良質なワイン用ブドウの産地であり、品評会で「かみのやま産ワイン」が入賞するなど、ワイン好きも注目する場所だ。上山市は蔵王連峰の麓にあり、四方を山に囲まれた盆地で、佐藤錦やラ・フランス、シャインマスカットなどの生産地としても有名。盆地の斜面を生かした畑のブドウには、均等に日が当たり日照時間も長い。また、4月から10月の生育期には雨も少なく、山から吹き下ろす風と、水はけの良い風土はブドウ栽培に最適なのだ。

 その上山市では、ワイン消費の拡大、ワイン用ブドウの生産振興、ワインの醸造拡大を自治体や農業関係者などで支援する「かみのやまワインの郷プロジェクト」が2015年11月から始まっている。ブドウ作りに適した自然環境に恵まれた上山市には、ブドウの新規就農者やワイナリーを創設する希望者が集まり、市もその活動を支援する。上山市は2016年6月にワイン特区に認定された。酒税法の酒類製造免許に係る最低製造見込数量の基準が6,000リットルに対し、特区では2,000リットルに緩和されている。そして、市では「ワイン乾杯条例」が施行され、乾杯の一杯目をワインで行うことが推奨されている。

■かみのやまで高品質のブドウを栽培しワイナリーに提供

 上山市の、標高200m~380mに位置する畑でワイン用のブドウを栽培する奈良崎洋一氏。東京でシェフの経歴を持つ奈良崎氏は、実家のブドウ農園で栽培を担う。奈良崎氏の畑では白ワイン用のシャルドネ、赤ワイン用のメルローとカベルネ・ソービニオンを主に栽培する。同じメルローでも幾つかの方式で栽培を行っている。

豊かに実るメルロー。9月を過ぎると昼夜の寒暖差が大きく、夜から一気に冷え込み、着色や糖度の凝縮が進む。

水はけが良い畑で、太陽の光をたっぷり浴びたシャルドネ

 

 奈良崎氏の畑から作られた高品質のブドウは県内外のワイナリーに提供される。同じ品種のブドウでも、ワイナリーの醸造家の要望によって収穫のタイミングが変わる。同じ畑で同じ品種のぶどうでも収穫時期が醸造家によって異なり、ブドウのタネを噛んで完熟度を判断し収穫時期を決める醸造家もいるという。

 「今年のブドウは例年に比べてとても良い物ができた」と、奈良崎氏。シャルドネは糖度が高く、爽やかな香りが口いっぱいに広がる。メルローの甘さもコクも豊かで、ワインが出来上がるのが今から楽しみだ。

奈良崎氏のブドウ畑は、盆地の南斜面で均等に日が当たる。斜面は急で、岩と石がゴロゴロしているが、岩石は地面を温め、急速に冷える夜には地面を冷やす。

四方を山々に囲まれた豊かな風土でブドウを栽培する

 

 奈良崎氏は「同じ品種でも、ヨーロッパでは作れない日本ならではのブドウを今後も栽培していきたい」と笑顔で語る。

 大雪の年には木が何本か倒れたこともあった。高品質のブドウを栽培する歴史と伝統のある畑を奈良崎氏は守り続ける。

■かみのやまの風土が育むドメーヌワイナリー(ウッディファーム&ワイナリー)

 現在、上山市には2つのワイナリーがある。ワイナリーとは、ワインを製造する場所で、ブドウの選果から圧搾、発行、熟成、瓶詰め、瓶内熟成などを行う。ワイナリーには一般的に、ぶどうの房から果梗を取り除く除梗機、圧搾機、発酵用のタンクや熟成用の樽、瓶詰めなどの機材が必要。また、厳密な原料処理や発酵管理など、醸造に必要な知識と経験に裏付けられた技術が必須だ。

 2013年9月に上山市に設立された『ウッディファーム&ワイナリー』は、自社畑でブドウを育て、ワイン造りを行う“ドメーヌワイナリー”。自社畑で栽培するブドウも多彩で、白ワイン用にはシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ、プティ・マンサンを栽培。赤ワイン用には、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カべルネ・フラン、ピノ・ノワールを栽培する。さくらんぼや西洋梨などの果樹園を営んでいたが、市や県のサポートを受けて2007年からブドウ畑を広げ、2013年にワイナリーを設立した。

 当時1hだったブドウ畑は現在7.3hにおよぶ。また、同社は太陽光発電の設備に必要な出資金を集め、ワインを出資者に返礼するといった、いま流のクラウドファンディングも実施。ワイナリーは、グラビティフローと呼ばれる敷地内の斜面を活かした作りにより、ポンプを使わずに発酵用のタンクまで果汁を移動させる。

『ウッディファーム&ワイナリー』の醸造施設を特別に撮影させてもらった

タルの貯蔵庫も特別に許可を

 

 先見性のある木村義廣 代表取締役は、ワインと一緒に料理や食事が楽しめる施設を現在建設中だ。
同社は当初、他のワイナリーに醸造を委託していたが、2014年から自社のワイナリーで醸造を開始。醸造家の協力のもと、ファーストワインをリリース。現在では、自社畑で収穫したブドウから赤、白、ロゼ、スパークリングワインまで、高品質なワインを醸造する国内有数のワイナリーだ。かすかな発砲が舌で感じられるシャルドネ、爽やかなソーヴィニヨン・ブランは逸品。驚きの味と香りのワインを造る。

ウッディファーム&ワイナリーで醸造されたワイン

 

 木村氏は「ワインはブドウの酸がしっかり残って、酸が(味を)まとめることが大事」「かみのやまで育てたブドウは自然の酸がしっかり残る」と語る。

 読者もぜひ飲んでみて欲しい。

■ワイナリー創業の夢に向かって(ベルウッドヴィンヤード)

 山形県朝日町の『朝日町ワイナリー』で19年間醸造を担当した鈴木智晃氏は、2017年に独立。山形県上山市久保手の裏町地区にある標高250mから300mの丘で、ワイン用のブドウ栽培を始めた。自ら栽培したブドウでワインも造る。現在は収穫したブドウをワイナリーに持ち込み、委託醸造したワインを市場に出しているが、数年内に自社ワイナリーの設立を目指す。

ベルウッドヴィンヤード 鈴木氏が畑づくりから取り組んだ、蔵王連峰を望む「見せるブドウ畑」

 

 ブドウの栽培場所を探していた当時、市の「かみのやまワインの郷プロジェクト」を知り、市の担当に相談。プロジェクトからの支援により、耕作放棄地となったブドウ畑で、畑づくりから始めた。ブドウ畑が広がる丘は、普段から「この場所でブドウ栽培とワイナリーをやれたら」と考えていた理想の場所で、即決断したという。

 蔵王連峰を望み、交通の便も良い西手の丘。市や県からの助成も後押しとなり、鈴木氏は、イメージ通りの丘でブドウ栽培を始めた。ブドウを苗から育てることは未経験だったため、畑から作ることは難しかったという。垣根式の栽培にも不慣れだったが、プロジェクトを通じて知り合った先輩や仲間などのサポートもあり、ワイン造りにこぎ着けた。欧米風の垣根式にこだわり「見せるブドウ畑」も意識する。

 垣根式の栽培が広がる畑には、ソービニオン・ブラン、メルロー、ピノ・ノワール、ピノ・グリの木々が植えられている。ピノ・ノワールやピノ・グリを栽培するのはかみのやま市でも比較的少ないが、ピノ・ノワールで醸造したワインが高く評価されるなど手応えを感じている。

ワイナリー創業の夢に向かって、垣根式でブドウを栽培する鈴木智晃氏

 

 今年はクラウドファンドを利用し資金も調達。理想の丘で収穫祭・苗木植樹祭を開催し、支援者もかけつけた。将来的には、ワイナリーに併設したカフェやショップの経営も視野に入れる。ワインツーリズムなどで上山市を盛り上げ、ワイン好きがブドウに触れる場所や機会を作っていきたいと語る。

 家族も応援する中、鈴木氏の夢は一歩ずつ確実に進む。

鈴木氏が造るワインのラベルには、この丘が描かれている。

■ワインの郷づくりに向けて上山市の取り組みが進む

 山形県上山市は9月20日、市役所でワイナリー創業希望者に向けたセミナーを開催した。セミナーは2015年から毎年開催し、今年はワイナリー創業を具体的に検討する希望者に向けて必要な知識や情報の提供を行う。

 第1回目のセミナーでは、山形県工業技術センター 食品醸造技術部 主任専門研究員の村岡義之氏が「ワイン醸造の基礎概論」を講演。山形におけるブドウ栽培の歴史から、ワインの消費動向、ワイン醸造の具体的な工程をはじめ、製造工程における必要な技術と機械の種類や台数などが説明された。

ワイナリー創業希望者に向けたセミナーを開催 上山市役所

 

 ブドウの収穫から選果、破砕、圧搾、必要となるタンク数、発酵、樽詰め、貯蔵、瓶詰めなど具体的な工程と機材の解説を聞ける機会は少ない。また、畑の面積から想定されるブドウの収穫量やワインの製造量の目安も解説され、これからブドウ栽培やワイナリーを設立したい人にとって貴重なセミナーとなった。

 山形県工業技術センターの村岡氏は「果実酒製造免許を取得した企業を対象とした技術者研修はセンターで行ってきたが、創業希望者に向けたセミナーの機会は今回が初めて。山形県内でもワインを一過性のブームにせず、成長させていきたい」と語った。

 セミナーの参加者は「農地を借りてシャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培を行っている。山形県内で飲食店を経営しているが、将来的にはワイン特区の制度を利用してワイナリーを立ち上げたい。チーズの製造・販売も行っているので、ワインと一緒に楽しんでもらいたい。上山市に移住も考えている」と語る。

 今年度の「ワイナリー創業セミナー」は、「酒類製造や酒類販売の免許申請に必要な要件とその準備について(山形税務署の酒税担当)」「資金調達方法、設備資金、運転資金など」「販路確保、卸、直販、などの経営面」「事業計画の立て方」「醸造機器の最新情報、醸造施設の設計方法」「醸造技術 実践編。成分分析の仕方等」などワイナリー設立に向けて、実務的な知識が得られる内容が予定されている。またワイン用ブドウの栽培に必要な基礎知識として「原料ブドウの確保方法」「栽培概論 生育サイクルと作業、病害虫対策、台木の特性」「冬場の栽培管理」などを予定している。詳細は、上山市農業夢づくり課まで問い合わせを。

 上山市では、今後もワイナリー創業希望者や新規就農者に向けて具体的な支援を行っていくという。

「かみのやま」産ブドウを使った、サントリー ジャパンプレミアム「産地」シリーズ

 

 温暖化の影響により、国内のブドウ生産地にも変動が起きている。安全安心でうまい国産ワインの醸造には、高品質のブドウの確保が急務だ。ブドウ生産を振興し、ワインのブランド化と消費拡大を通して地域を元気にしていく『かみのやまワインの郷プロジェクト』の動向に今後も注目していきたい。

※地域限定ワイン「かみのやまテロワール」が11月11日に発売。ブドウの収穫やラベルデザインに市民も参加。かみのやまの高い技術が凝縮したワイン。かみのやま市で限定発売。


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