【コラム】アイドルはなぜグループ化したのか

 デジタル化が既存の価値のありようを変えている、あるいは破壊しているという表現をよく耳にするようになった。ビジネスを破壊する場合は、端的にデジタル・ディスラプションと呼ばれることもある。これはどういう現象なのだろうか。

 アイドルを例にとって考えてみる。近年、アイドルといえばグループで売ることがほとんどである。「アイドル」の定義にもよるが、ピン(単体)のアイドルを見る機会は稀になった。なぜだろうか。

 一般的になされる説明としては、「現代は個人の多様化が容認され、浸透した社会であるため、異性に対する好みが一様ではなくなった。したがって、ピンのアイドルではある個人の嗜好を外してしまうことが多い。それに対応するために、アイドルをグループ化し、メンバーの誰かが消費者の嗜好に合致することを狙っている」というものがある。

 聞けば納得できるロジックではあるのだが、おそらくこの説明だけでは十分ではないだろう。現時点において、単体のアイドルではマネタイズの機会を失うのである。

 いま、アイドルはなにで稼ぐのか? CDは売れない。DVDも売れない。どれもデジタル技術によってゼロに近いコストでコピーができるからである。もちろん、アナログ時代でもコピーをすることは可能だった。しかし、時間的コスト、金銭的コスト、工数的コストは今よりもずっとかかった。その結果出来上がったコピーも、オリジナルからの劣化は明らかだった。

 しかし、情報がデジタルメディアに載り、デジタルデータとして扱えるようになると、条件付けによっては劣化なしでコピーがとれる。そこにかかるコストも、限りなくゼロに近い。

 人は容易に手に入るコピーに対して、大切なお金を払わない。オリジナルの価値や、オリジナルを作る人にお金が還元されないと、そもそも次の作品が作られず、消費者にとっても不利益があると頭では分かっていても、ただで同じ品質のものが入手できるのであればよほどの変わり者でない限りコピーを活用する。だから、CDやDVDで稼ぐのはもう無理である。サブスクリプション(定期購読)モデルで撤退戦を戦うのが精いっぱいの抵抗だ。

 では、アイドルは何で稼げばよいのか? 答えは明らかである。デジタル技術でコピーできないもの、つまり体験を売ればいい。

 「モノ消費からコト消費へ」といった言葉は有名になった。消費者が成熟したから、ものより体験が欲しいのだ、と奇麗に説明されるが、ようは体験にしかお金を払ってもらえないのである。だからアイドルは握手券を売る。CDに添付して買ってもらう。その結果、大量のCDが捨てられ批判に直面しても、である。他に稼ぎようがないのだ。

 したがって、アイドルがグループ化するのは必然である。1人のアイドルが1時間でさばける握手の数はたかがしれている。しかし、48人いれば? 46人では? 状況は劇的に変わる。握手というマネタイズの機会を増やすためには、手の数を増やさなければならない。デジタル化による価値の遷移と、アイドルのグループ化はセットである。

 ところで、デジタル技術は「体験」でさえメディアに載せ、デジタルデータ化しようともくろんでいる。仮想現実(VR)のことである。今のところ、VRで得られる体験はプアで、現実の体験に遠く及ばない。しかし、VRが「体験のコピー」を可能にしたとき、アイドルの握手会ビジネスもまた、破壊されることになるだろう。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部開設準備室副室長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ビッグデータの罠」(新潮社)など。


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