教えて!柳原先生
◎日本料理は水の文化  世界に誇れる豊富な発酵調味料 ◆発酵シンポ・柳原尚之氏講演

柳原氏写真
 近茶流というのは、江戸の文化文政、1800年ごろに起こった流派。もともとは女性の流 派だったが、祖父の代に初めて男性の手になり、私で3代目。父が宗家をしており、その 継ぐ家という意味で嗣家と名乗らせていただいている。
 まず外国料理と日本料理を比較したい。外国料理というのは、脂と香辛料でできている 料理だ。フランス料理やイタリアン、中華なども、脂でまず炒めるところから始まる。脂 で下処理をし、香辛料を使うことで味にフレーバー、香りをつけたりして、料理ができて いく。フランスのレストランとかに行くと、スパイスだけで1つの部屋がある。そこに料 理人が入っていって選んでいく。


▽ゆでる、煮るから料理が始まる
 これに対し日本料理は全く反対。水の文化だ。水で洗い、ゆでる、煮る、そういったこ とから料理が始まっていく。日本列島は細長くて、中心に山脈が入っている。雨が降ったらそのまますぐ海に流れるわけで、 日本の川は全部清流だ。水がきれいだったことが、今の日本料理を作っているといえる。
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 洗う、ゆでる、煮るにもう1つつけ加えたいのが「だしを引く」だ。おいしいだしを引くこととおいしい料理を作るのとはほぼ同じだと思ってほしい。 だしは料理のベース。おいしくとれば、ベースも大きくなり、上に味を重ねていくことがしやすくなる。だしがあまりおいしくないと、上に建てるものが少なくなる。建物と一緒だ。
 今、普通のだしというのは、かつお節と昆布を使うことが多い。私は東大寺のお水取り という行事で、精進料理を1カ月つくったが、精進料理にはかつお節を使うことができな い。使うのは昆布がメインで、他にシイタケを使う。このためとても難しい。かつお節の 力がない分、土台が少ないので、味を立てるポイントがとても少なくなる。普通だったら 許容範囲が広く、塩でも調味料でも許容範囲の中で押さえていけば味ができたのが、とて も狭いから、ちょっと塩を足すとすごくしょっぱくなってしまったりする。

 味の要素は5つ。まず塩分。塩をかける、これが味の決め手でもある。それに甘さ、酸 っぱさ、苦さ、うま味。この5つが合わさって、そのバランスを変えることによって味が できる。そこをコントロールするのが料理人である皆さん方、主婦の腕になってくる。
 うま味で大事なものがかつお節だ。かつお節は雄ぶしと雌ぶしと言って、半身を背側と 腹側にしている。昔は結婚式などで、雄ぶしと雌ぶしを合わせて夫婦ということで引き出 物なんかにもしたそうだ。かつお節のうま味は削らないと出てこない。かつお節の削りぶ しに昆布またはシイタケ、あと煮干しを合わせることで、うま味が出てくる。
 ただ、だしとなったときに、全部をまぜてもあまりおいしくないのが、また不思議なと ころ。昆布とかつお節、昆布とシイタケ、さらにそこにかつお節を入れれば、さらにおい しくなるというものでもない。

▽世界的に注目される日本のだし
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 日本のだしでは、世界的にも注目されている。フランス人のシェフでも、今はみんなが うま味とだしのことを知っている。海外にもビーフストック、フィッシュストップ、チキ ンストックがある。では海外のだしと何が違うのか。1つは何みでも使える汎用性だ。
 1つのだしをとっておけば、それがお吸い物にも、肉料理にも使える。海外の例えばビ ーフストックだと、牛のだしをとったら、それは牛料理にしか使えない。それを魚料理に 使うということはない。それぞれのだしをとらないといけないわけだ。
 次にすぐできること。大体15分ぐらいで日本のだしはとれる。海外のだしだと一晩かけ てゆっくりだしを出す。そして最後が正確性。例えば3リットルのだしを必要というとき に、3リットルのだしを引かないといけない。海外のだしだと、時間を長くかけてとるこ とで濃いだしがとれるので、ちょっと少なくても水を足して使うことができる。この辺が 海外のだしとの違いだ。
 注意して欲しいのは、何でもかんでも放り込めば味ができるというものではないこと。 それぞれの食材に適した温度やタイミングで入れていかなければならない。日本のだしだ と、最初に昆布を入れる。水から昆布を入れて煮出していく。大体70度ぐらいで取り出し てしまう。あまり温度が高くなると、ぬめり、におい、あとは色がだしのほうに出てきて しまうからだ。そういったことを抑えるために先にとってしまう。
 その後かつお節を入れるのだが、今度はしっかりと沸騰させてからか入れる。かつお節 は魚だから、水から入れてしまうと魚臭くなってしまう。しっかり沸いてからかつお節を 入れて絞る。そうすると、おいしいだしが引ける。かつお節を先に入れてしまったり、昆 布をずっと入れておいたりすると、悪い部分も出てきてしまうので、正確性が必要になっ てくる。

▽醤油は代表的な発酵調味料
 醤油、味噌、酒、酢、みりんなどは世界に誇れる発酵調味料だ。まず醤油は日本料理と ほとんどイコールのような感じで扱われている。結構前から、世界じゅうのシェフが使っ ており、例えばステーキのソース、そういったところに数滴たらす、隠し味として醤油を使う。
 料理の中での醤油の使い方で一番重要なのが、味をつけるということ。濃い口醤油だと 16から17%の塩分がある。これは考えると不思議なことだ。醤油はなめられるが、海水は なめられない。でも海水の塩分は大体3%。それの5倍以上ある塩分がなめられる。なぜか。 うま味が多いと、塩分を感じさせなくするからだ。最近では塩分を減らし、アミノ酸を増やして添加している減塩醤油というものもある。
 だしをおいしくとれば、その分塩分が少なくて済む。入れる塩が少なくて済む。おいし いだしを引くということは、健康にもいいことになる。
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 次が香りをつける醤油。思い浮かべて欲しい。鳥でも何でも焼いて、そのわきに醤油を じゃっとかける。シュワー。その香りはとてもたまらない。あの香りが食欲をそそる。色 もつける。濃いと味が強そうにも感じるし、薄いと薄そうに感じる。そういったこともあ るので、料理人たちは野菜の煮物などではなるべく色を濃くしないようにしている。逆に 例えばニシンの煮物などは、色が濃いほうがおいしそうなので、ちょっと濃い目の醤油を 使ったりする。
 さらに保存性を高める。酵母が入ることによってアルコールが出てくるのだが、約4% 近くと結構高い。米国はニュートリションファクトと言って、アルコール分を書かなきゃ いけない。ビールでも6%とかだから、ラベルを見て「何だ、アルコールじゃないか」と 思って飲んじゃう人がいた。これは料理に使うと、そこからまず説明をしなければいけな い。担当者が行ってみたら、酒売り場で醤油が売られていたという話もある。

▽臭みを消し香りを付ける
 次が味噌。味をつけるのは醤油と同じ。塩分が同じぐらいあるので、しっかりした味を つけることができる。臭みを消す、香りを付けるといった機能もある。マスキング効果な どと言うが、ちょっと臭いものに味噌をかけると、味噌のにおい成分が囲んでしまってに おいを感じなくなる。西京漬とか、そういった魚料理にも多く使われている。
 さらに保存性を高める。これも、例えば西京漬もそうだが、空気を遮断する。味噌がぴたっとついていることによって、 腐敗菌等が入ってこなくなるわけだ。あと色をつけるのも醤油と一緒。
 さらに酒がある。料理教室をしていると「お酒はいつ入れればいいんですか」とよく聞 かれる。煮物または魚料理で入れるタイミングが少し違う。まず癖をとる、生臭みを抜く。 例えば煮つけなんかを作るときには最初から酒を入れる。アルコールの力によって魚っぽ さを抑えることができるからだ。
 2番目に物をやわらかくする効果もある。3番目は浸透性をよくする。これらはとても似ているけれど、 芋やカボチャ、そういったものに入れるとやわらかくしてくれる。やわらかくするということは、 細胞の間にすき間ができるので、そこに味が入りやすくなる。 でも逆にやわらかくするということは、行き過ぎてしまうと煮崩れの原因になりかねない。 そこで根菜類の煮物なんかのときは、少しずらしてあとのほうに入れていく。酒の中には おいしさ成分、うま味成分も入っているので、おいしさを同時に与えることができる。
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 そして最後が酢だ。酢は酸味をつける。塩味を丸める。タンパク質をやわらかくする。 色をきれいにする。それ以外に脂っこさをとるというのもある。ラーメンなどに酢をかけ ると、脂がふわっと散って口の中に脂が残らないようになる。そういったことに酢は使え る。
 ほかの微生物がとても入りにくいので保存にも役立つ。いわゆる酢漬けだ。正月料理の ように甘酢に漬ける料理は多い。酢は酒、アルコールがあれば、そこに酢酸菌を入れるだ けですぐにできてしまう。世界最古の調味料なんて言われているが、酢の中にもうま味と いうのがあるので、いいお酢を使うというのも料理上手になりやすい要素だ。
 もう1つあった。みりんだ。みりんは江戸時代後期になって出てきた新しい分類の調味 料。もともとは柳かけなんて言って、下戸や女性が飲むものだった。最初は半透明だが、 一夏越えるとちょっと色がついて、3年たち10年がたってだんだんと色が濃くなり、味が まろやかになる。
 みりんは甘みをつけるというのが一番のポイントだ。関西だと砂糖を使わず、みりんだけで味をつける方も多い。でも砂糖と違う甘みだ。 糖を分解しているのでグルコースと言って、糖の中で最小単位。 それが味の大きな成分であるので、もっとすっきりとした甘さになる。ただ甘さが弱いので、それだけで料理しようと思うと少し弱い。やっぱり砂糖を 加えながらやるのがいいと思う。
 照りを出すのも特長。照り焼きは世界共通語になっている。みりんと醤油を合わせて火にかけることで、 とてもいいつやが出てくる。筑前煮とかそういったものを煮て、最後にみりんをさっとかけてまぜる。 そういった「追いみりん」という技術もある。アルコールなので、酒と同じように臭みを消す効果もある。

▽日本の国土がつくる日本料理の味
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 水と発酵調味料は日本料理の特徴だ。日本列島は細長くていい水があるから、だしにな り、煮るとかそういったものに使った。発酵調味料も実は日本の風土が作ったものだ。ま ず四季があって、そして湿度が高い、そういったことで微生物が生えやすい環境だった。私たちが今住んでいる日本の国土が日本料理の味を作っているということを、 もう1度再認識して、日々の食事をしていただきたいと思う。毎日3食たべると、1年で1065回の食事をと勘定。 それをどういうふうに食べていくかで、その人の味、人格なんかも形成されていく。皆さんも1つ1つの食事を大事にして、 そして発酵調味料をいっぱい使って健康に過ごしていただきたい。
(了)
 
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