知らなきゃ損!聞いて学んで…
◎味覚は栄養素のシグナル  うま味がコクや深み与える。 ◆発酵シンポ・前橋健二氏公演

前橋氏写真
 「ミラクルフルーツ」という、ドングリ大の小さな赤い実をご存じだろうか。1粒400 円程度する高級フルーツだが、これが文字通り非常に不思議(ミラクル)な働きをする。 それ自体は、口に含んでも全く味がない。ところがその後に、酸っぱいものを味わうと、 不思議なことに非常に強い甘みが口の中に広がる。なぜそんな現象がおこるのか、子ども たちが味に興味を持つ契機になるというので、「食育」とかの現場で利用されている。
 よく酸味が甘みに変わるというふうに紹介されているが、無味の物質が酸味によって甘 味物質に変わる「甘味誘導作用」というのが正確な説明だ。本日はこういった味の不思議、 味覚って何だろうという話をしたい。


▽味覚を表す5つの表現
 おいしさを表すとき、どんな味か、いろいろな表現がある。しかし学術的に味覚を表現 する言葉というのは「苦い」「甘い」「しょっぱい」「酸っぱい」「うまい」の5つしかない。 最後のうまいというのは、実はあいまいな言葉で、学術的には「うま味がある」「うま味が 強い」という表現になる。
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 ほかにも口の中で感じる温度とか、物理的な異物感、硬い軟らかいの物性なども感じるが、学術的には味覚でないとされている。
 では、味覚とは何か。生物学的に見ると、体に必要な「栄養素のシグナル」といえる。 エネルギー源の糖であったり、ミネラルバランスに必要な塩分であったり、タンパク質を 構成するのに必要なアミノ酸だったりを、甘い、しょっぱい、うまいというシグナルで感じ取る。生物として生きるために必要なものを、味覚で探り当てるわけだ。
 一方で酸味や苦味といった味覚は、食べてはいけないという危険のシグナルになる。腐 敗によってできた酸味、未熟な果実、そういったものを「食べるべきではない、食べる必 要がない」と教えている。ただ人間の場合、酸味や苦味までも、おいしさに変えてしまう ケースがある。それは一体なぜなのか。


▽精神レベルの満足感求める
 生物は栄養補給、生きるために、食べなければならない。しかし人間の場合には、それだけでなく、 おいしさを感じて「食べる喜び」を楽しむという面がある。精神レベルの満足感、これがいわゆるおいしさであって、 体が今必要としている適切なものを体が摂取したときに、体がその報酬として脳に与える快感だと言われている。 快感を味わうことで、体が元気になるだけでなく、心も豊かになる。生活や人生が楽しくなる。 そういったことを目的として食べという部分が、動物と人間の決定的な食べる目的の違いだと思う。
 もっとも人間も、生まれたばかりのころは、本能的な味覚行動をする。大人は苦味など 色々な珍味でもおいしいと感じるが、赤ちゃんは激しく拒絶する顔になる。では嗜好性は いつから形づくられるのか。
 生まれて間もないころは母乳またミルクで育つ。母乳で育てば、母親が食べたもののにおい、 例えばニンニクを食べるとニンニクのにおいが母乳に出てくる。またアルコールなんかを飲めばそういったものが出てくる。 母親の食べたものが母乳を通じて子どもに伝わるわけで、母親と子どもがもろに食事を共有していると言える。 この辺が母親は食事に気をつけるべきだと言われる所以だろう。

▽味覚学習が嗜好につながる
 子どものころ、まだ味覚経験が浅い時期は、周りの大人の評価にとても敏感だ。どの味がおいしいのか、おいしくないのか、 体に役に立つのか、食べてもいいのか悪いのか-そういった大人の話を聞きながら吸収していく。 記憶にすり込まれ、大人になってからの食習慣や食嗜好に多大な影響を与えることが研究で分かっている。
 味覚学習も嗜好性につながる。アレルギーの人のためにタンパク質を分解したミルクがある。普通のミルク似比べて苦かったり酸っぱかったりするため、 大人が飲むとおいしくない。しかし生まれて間もない乳児のときから、こういったミルクを与えて経験をさせた子どもは、 4~5歳になっても好んで飲むというデータがある。乳児期のときに経験した味覚は、大人になっても受け継がれていくようだ。
 また小さいときにフルーツジュースを経験すると、離乳時などに初めてニンジンを与え たときも、拒絶せず割とすんなりと飲んでくれるという。いろいろなものを食経験してい る子どもは、生まれて初めて出会った食物に対して、受け入れるキャパシティーが広いと いうデータが出ている。
 これは動物実験だが、マウスの場合、初めて食べたときに何か体を壊してしまったとか 下痢をしてしまったとかいう食物は、死ぬまで強く嫌うという。逆に食べて体がよくなっ たとか、調子がよくなったという場合には、この味はおいしい味だと学習して好きになる。 人間にも共通したところがあり、まずは食べてみる、そしてその結果がどうなったか、体がよくなったか、それによって好き嫌いが分かれる。
 味だけでなく、においも重要な機能を果たす。味とにおいというのは一体化して、口の 中に広がる「風味」と呼ばれる感覚となる。味とにおいとがセットになって、食品の記憶 がつくられていく。このためにおいをかぐだけでも、味が口の中に思い起こされて、あの においは確かこんな味だ、だから好きだ、あるいは好きではないという記憶を呼び起こす。

▽ペプチド混合物で複雑な味に
 発酵食品は、無味の素材から微生物の酵素によって分解してうま味成分をつくらせる。 例えば大豆タンパクには全く味がないが、こうじの酵素などいろんなものが加わって分解 され、熟成するとアミノ酸といううま味成分に変わる。
 アミノ酸ができるかたわらで、まだ完全に分解していないものも残る。こういったもの を「ペプチド」と呼び、さまざまな味を持っている。甘いもの、苦いもの、酸っぱいもの、 いろいろなものができる。発酵食品の味が複雑なのは、ペプチド混合物の働きによるもの だ。発酵食品に特徴的な苦みペプチドは、苦いが血圧低下作用があったり、抗酸化性があったりして、 健康には役に立つ成分だということも最近では分かってきた。
 味を感じる仕組みの研究も最近では進んでいる。口の中の舌の上には味蕾という組織が ある。1個1個が味を感じる味細胞が密着してできたものだ。この味細胞の先端、唾液で 接している部分に味を感じるセンサータンパク質という分子があり、アミノ酸が結合すれ ばうま味を感じ、糖が結合すれば甘みの刺激を発する。
 味覚のセンサーの遺伝子には個人差があり、ある特定の味に対して、ある人は非常に強 く感じたり、ある人はあまり感じなかったりする。こういった個人差が、同じものを食べ ても、ある人は非常に強く苦みを感じて嫌いになったり、ある人はそれほど苦くは感じな かったので嫌いにならなかったり、そういった嗜好性の形成に何かしら影響を与えている ようだ。
 人間は成長過程で苦みへの嗜好性を獲得する。苦みは毒物を摂取するのを防ぐためのシグナルだが、 苦み物質は必ずしも毒ではない。むしろ生理活性物質、機能性を持つ物質がかなり多い。 お茶の渋みも、最初は嫌な味と認識しても、健康によいと学習して嫌いではなくなっていく。
 特に発酵食品の苦みに対して、嗜好性を獲得するというのは人間の特徴だ。子どもには わからない大人の味、食経験によって得られる味ということになる。ただし、そうはいっても適度な苦みでなければいけない。 幾ら苦みがおいしいといっても、やはり突き刺さるような鋭い苦みではおいしいとは感じない。 適度なほろ苦い苦みというのが重要になってくる。

▽甘みや塩味が苦み和らげる
 味の相互作用も重要だ。例えば甘みというのは、苦みを和らげる作用がある。マスキン グ効果といわれるもので、コーヒーやチョコレートが苦くて飲めないという人でも、砂糖 をたっぷり入れて甘くすると割と飲めるようになる。苦味や渋みといったいろいろな雑味 を、甘味でマスキングすることによって味がならされて、何かやわらかい丸い味になる。
 塩味も苦みを和らげる。例えば味噌には大豆由来の苦いペプチドが入っているが、塩分によってかなり抑えられている。 味噌汁の具材が苦いものであっても、味噌の塩分で苦みをあまり感じずにおいしく食べられる。これは和食のよさといえる。
 醤油や塩をかけるだけでも、また野菜炒めをするにも、塩分で味つけすることで、苦み を抑えておいしくなる。調理の原則、基本だと思う。
 苦みの緩和には世界一かたい食品と言われるかつお節も役立つ。ゴーヤーチャンプルは 子どもが嫌いな料理ナンバーワンという話も聞くが、とにかく苦みが強い。ところが、か つお節をたっぷりかけると、劇的に苦みが和ぐ。
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 このように発酵食品を利用して、苦みが気になるものでも和らげて、おいしく食べる方 法は、工夫次第でいろいろあると思う。
 発酵食品のもう1つの特徴的な成分でうま味というのがある。代表的なものはグルタミ ン酸。主に醤油や味噌など植物性のものに、タンパク質の発酵によって低分子化してグル タミン酸が豊富にできる。一方だしの方には、核酸系の調味料と言われるイノシン酸やグ アニル酸が存在する。イノシン酸は魚や肉によく含まれているもので「ATP」というエ ネルギー物質。これが死後に分解することでイノシン酸ができる。魚の刺身はおいしいが、 実はちょっとだけでも置いて時間がたった方が、イノシン酸の濃度が上昇してよりおいしく食べられる。

▽素材の自然な風味引き出すうま味
 さらにうま味の相乗効果というもがある。グルタミン酸にイノシン酸を1割程度入れるだけで、 うま味の強さは5倍にはね上がる。うま味が足りないといってグルタミン酸を大量に粉末で入れるのもいいが、 それよりもちょっとだけイノシン酸が加えることで、より大きな効果が期待できる。植物性の醤油や味噌の調味料を使ったら、 煮干しやかつお節といった動物由来のだしを組み合わせることで、より効果的においしくすることができる。
 発酵食品の場合には、独特のいろんな複雑な味があるが、うま味という物質があるおかげで、 割と酸味や苦みがやわらかい状態になっている。それから味にコクや深みを与える。 何か物足りないなというときにうま味があると、味に厚みができ、それだけで何か満足感が得られる。
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 また塩味を引き立たせて、少量の塩味でもよりぐっと塩味を感じておいしく食べること ができる。むやみにいろんなものを加えなくても、ちょっとうま味を加えるだけで、すべ ての味が立ってくる。さっぱりとシンプルだけれども、非常に味が感じられるおいしさが 生まれくる。このように発酵食品のうま味には、食品素材が持つ自然の風味を引き出すフ レーバーエンハーサーといった役割がある。
 酸味や苦みというのは、生物学的には危険なシグナルかもしれないが、発酵食品として は味の複雑さ、味覚の豊かさにもなる。しかも発酵食品に含まれている酸味物質、苦み物 質は健康にいい成分ばかり。健康によいとのシグナルともいえる。
 発酵食品は食材によって、また地域によって、料理の仕方によって、さまざまに複雑な 味を生み出す。豊かな幅広い食習慣、食環境、そういったものを経験するための豊かな食 嗜好性を培うことにも役立っている。
(了)
 
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