知らなきゃ損!聞いて学んで…
◎発酵食品は「滋養の宝庫」  神秘的なにおいと味醸し出す ◆発酵シンポ・小泉幸道氏公演

小泉氏写真
 まず「発酵」とは何か?醸造科学的に言うと、酵母や細菌などの微生物が有機化合物を分解してアルコール、 有機酸、炭酸ガスなどを生ずる過程-という少し硬い説明になる。やはり微生物が絡むものの、 有機物、特にたんぱく質が細菌によって分解され、有害な物質と悪臭ある気体を生ずる「腐敗」とは全く異なる変化だ

▽微生物の力借りて変身
 そして原料である食品素材そのものが持っていなかった味や香り、次元の異なるおいし さ、好ましい感覚などを、微生物の力を借りて作り上げたのが発酵食品。日本酒、ビール、 ワイン、焼酎、味噌(みそ)、醤油(しょうゆ)、酢、ヨーグルト、チーズ、パン、納豆、 漬物、塩辛-身近にはおいしい発酵食品があふれている。
 これら発酵食品は、食べた後は消えてしまう。けれども風味のすばらしさは記憶に残っ ている。私たちは嗅覚、視覚、触覚、聴覚、味覚の五感をフル動員して脳の記憶に留め、 過去に味わった強烈な印象を蘇らせることができる。その意味で「発酵食品は芸術品」と もいえる。
 「保存」という役割も持っている。例えばブドウ。日本の場合は8割をそのまま食べて しまうが、欧州は8割がワインになる。ブドウを搾って果汁にし、アルコール発酵する酵 母菌を添加してワインを作る。生のまま置いておけば、一定期間後に腐ってしまうが、発 酵食品であるワインにすることで、保存がきくものになる。

▽民族の歴史と心を濃縮
 食は風土とのかかわりが強い。その土地で生産された食材に、その土地の調理・加工法 を施し、食生活を形作ってきた。食の中には人類が歩んできた道が濃縮されている。民族 の歴史と心が込められている-といえる。
 さて発酵食品の魅力だが、まず「滋養の宝庫」だといえる。発酵をつかさどる微生物は 多種多様で、発酵の過程で多種多量の栄養成分を作り、食品の中に蓄えてくれる。例えば 煮た大豆と、それに納豆菌を繁殖させて作った納豆と比較すると、納豆の方が圧倒的に栄 養成分は高い。あるいはコメを蒸してこうじ菌を加えると、こうじ菌の繁殖でもとのコメと比べると驚くほど栄養成分が高まる。 こうじにお湯を加えて一夜おいてから飲む甘酒は、こうじ成分の抽出液のような飲み物だ。

▽発酵でかけ離れたうま味に
 2つ目は「神秘的なにおいと味」。近江の鮒ずし、新島のくさや、納豆やチーズも個性の あるにおいを放つ。一方で日本酒の香りのような、おいしそうな香りもある。小麦粉を水 で練ってから酵母で発酵させ、その後焼き上げたパンを思い浮かべて欲しい。味では、煮 た大豆に比べて、それを発酵させたみそ、醤油のうま味の差は歴然。牛乳とチーズ、コメ と酢などを比べてみても、発酵の前と後ではうま味にかけ離れた違いがある。
 3つ目は、格好の生育環境に入ったとき、微生物は一挙にその数を天文学的に増やして くれることだ。大人の小指のつめぐらいのブドウ1グラム中に約10万個の酵母菌がいる。 発酵が起こって24時間には、これが4000万個と400倍になり、48時間後には2億個と約 2000倍に増える。ワインの例ばかりではなく、発酵現象全体において共通して見られる現 象だ。

▽白鳳時代の文献に登場する醤油
 身近な個々の発酵食品について、魅力を掘り下げてみたい。まず醤油。その歴史は非常 に古い。日本では白鳳時代の文献に大豆を原料とする各種の「ひしお」の記録がある。ひしおは当時の塩蔵品の総称。 原料別に「草びしお」「肉びしお」「穀びしお」の3つに分かれる。 草びしおは今の漬物、肉びしおは塩辛、それから穀びしおのうちの「黒びしお」というのが醤油と言われている。
 現在では大豆や脱脂加工大豆を蒸したものに、ほぼ等量の煎って割砕した小麦をまぜる。 これに種こうじ、醤油こうじと食塩水を一緒に仕込んで、1年間発酵・熟成させると濃い 口醤油ができる。全生産量の約8割強を占め、あらゆる用途に適しているので、最も一般的に用いられている。
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 色が薄い薄口醤油もある。料理の素材の色を生かした調理に合っている。製造法に大差 はないが、原料処理方法を工夫し、製品に色をつけないように配慮している。蒸しまんや 米こうじの甘酒を加えることも特徴。塩分は濃い口より2%ほど高い。
 醤油の効果は代表的なものが3つ。まず殺菌力。醤油中の有機酸、アルコール、さらに高濃度の塩分などが関与して、病原菌や大腸菌に対して強い殺菌力を持っている。浸して食品を保存することが可能だ。 次いで調理効果。醤油には多数のアミノ酸が含まれており、食品素材の成分との相乗効果でうま味を高めてくれる。最後は消臭効果。特有の醸造香で魚の生臭みをとってくれる。

▽世界の食文化でも珍しい味噌汁
 次は味噌だ。やはり日本の発酵食品の代表的なものといえる。大豆とこうじに食塩をまぜ合わせ、固体発酵させたもの。これに具を入れて味噌汁とし、液体で濁ったまま飲食す るのは、世界の食文化から見て実に珍しい日本だけの特徴といえる。
 味噌汁が一般に普及するのは室町時代。この時期に大豆の生産量が増えて、味噌の自家 醸造が始まったと言われる。室町から戦国時代にかけては、ご飯に味噌汁をかけて食べる のが普通だったらしい。江戸時代になると、味噌は現在と同様、毎日の食卓になくてはな らない食品だった。
 味噌はコメや芋など「でん粉主食型」の日本人にとって、昔から貴重なタンパク質源だった。コメ味噌で大体14%、麦で13%、豆では19%のタンパク質が含まれている。必須 アミノ酸のほか炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルも豊富に含まれており、日本人を栄 養面から大いに助けてきた。それからもう1つ、発酵によって生じたリン脂質の1つ、レシチンには高血圧の予防効果もあるとされる。
 日本人が長い間、ご飯に味噌汁という質素な食事をしながら健康でいられたのは、栄養 豊富な味噌のおかげだ。野菜などみそ汁の具からも栄養がとれる。塩分を気にして味噌汁 を敬遠する人が最近少なくないが、1日1杯の味噌汁を食べることを心がけたい。

▽かつお節も発酵食品
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 次にかつお節。1674年に紀州、今の和歌山県にゆかりのある漁師が土佐で焙乾(乾燥して蒸す)し、いぶすということを始めたのが起源とされている。当時、土佐と紀州は密接 な関係があって、紀州の漁師たちは毎年のようにカツオを求めて土佐へ漁業をしに来てい た。漁獲技術ばかりじゃなく、魚の処理、保存などの技術の交流があったものと思われる。
 つくり方は、カツオを3枚におろして1.5時間煮た後、冷やしていぶし、日光で乾燥させる。その際にこうじのカビをカツオにつける。2週間ぐらいかけ、同様の手順を4回ぐらい繰り返して十分に乾燥させるとかつお節ができる。
 かつお節というと、今は削ってパックに入っているものを思い浮かべる人が多い。しか し昔はどの家庭にも、かつお節を削る削り器があった。私はカツオをかく音、これが日本 のお母さんたちが作る食事の8分音符の音じゃないかと思っている。
 カツオを発酵させる目的は、1つには水分を除いてしまうことがある。もう1つは脂肪 を除いてしまう。魚を煮出しても、水分はまだたくさんついている。これをカビによって どんどん吸ってしまう。脂分も除いてしまう。かつお節は私たち日本人がつくり上げた独 特の調味料で、食品としてばかりでなく、縁起物として結婚式あるいは慶事の贈答品とし て使われてきた。

▽血栓を溶かす納豆キナーゼ
 4つ目は納豆。糸を引かないと塩辛納豆と糸引き納豆の2つがある。どちらも昔からわ が国の食卓にあって、タンパク質の供給源として重要な役割を果たしてきた。
 皆さんが毎日食べているのは糸引き納豆だ。最初に作り出したのは室町時代中ごろで、 江戸に入ると納豆売りが「納豆、納豆」の掛け声とともに朝、売り歩いた。これにより庶 民の朝食には、味噌汁と納豆という大豆の二大発酵食品の食事パターンができ上がった。 栄養学的にみても、大豆が高度に利用されている世界に類を見ない例だ。
 作り方は、大豆を煮て、これをわらのつとに詰めて保存する。今はわらを使わず、ほと んど発泡スチロールの容器に代わった。容器に納豆菌をつけて一定温度で発酵させる。粘 質物の本体は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸がポリペプチドという成分と結合して、 これに果糖の重合体が結合した複雑なものだ。
 納豆は納豆菌の繁殖によって、煮ただけの大豆にビタミB2が10倍もある。ビタミン類 を生合成して、それを菌体外に出すからだ。ビタミンB1、B6、ニコチン酸なども納豆 に多く含まれる。また納豆菌は腸内で有毒菌の繁殖を防ぐ作用を持っている。さらに納豆 キナーゼという酵素が血栓を溶かし、アンギオテンシン変換阻害酵素は高い血圧を下げる 作用を持っている。

▽食酢には疲労回復効果も
 最後に食酢、調味料の酢だ。食酢製造起業家というのは日本では17世紀の中ごろ、江戸の初め、日本酒の副産物である酒かすから「かす酢」が作られた。 穀物酢は昭和54年以降に登場、リンゴ酢は戦後食の洋風化に伴い生産されたということだ。
 酢はでん粉を含んでいるか、あるいは糖分を含んでいる物質であれば、どんなものからでも作ることができる。簡単に言えば、 アルコールをつくれる物質、アルコールがあれば何でもできる。糖分のもとがでん粉、食酢は糖液に酵母を加えてアルコール発酵後、酢を作る菌を加えて酢酸発酵して作る。
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 失われたエネルギーを素早く補給してくれる疲労回復効果がある。ほかに酸味が唾液の 分泌を促してくれる食欲増進効果、消化液の分泌を促進してくれる便秘解消効果、食品からカルシウムを作って骨への吸収を高めてくれる骨粗鬆症の予防効果。 さらに血圧を下げてくれる効果などもある。
 米酢や玄米酢など穀物からできた酢には、アミノ酸が豊富に含まれている。また果物の お酢は香りがさわやかだ。1日大さじ1杯、15cc、毎日とると健康にいいとされる。ただ 食酢の3度というのは4.2%ぐらいなので、原液のまま飲むのはよくない。水で4、5倍に 薄める。ハチみつなどを入れれば、さらに飲みやすくなる。体によい調味料として積極的 に活用して欲しい。
 目に見えない微生物の働きを利用して、人類は発酵という一大文化を作ってきた。発酵を通して多くの恩恵を受けているということを忘れず、 感謝をしながら毎日の食生活を過ごしていただきたい。
(了)
 
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