Kyodo Weekly 2012年3月26日
関西学院大の平岩俊司教授は12日、共同通信社の大阪きさらぎ会で講演し、金正恩氏の北朝鮮新体制は短期的には安定するものの、中長期的には多くの課題を抱えている、と指摘した。「リーダーシップを発揮できるような体制でないうちは、今までの政策を変えることはできない」とし、前の指導者が残した言葉に基づく「遺訓政治」では「日本は遺訓をどう活用していくのかが重要になる」と強調した。
講演「ポスト金正日の北朝鮮情勢~金正恩体制の行方」の要旨は次の通り。
▽党、軍、国家の3本柱
北朝鮮専門家の多くは「北朝鮮は短期的には安定するだろう」とみている。準備不足はあるが、最低限の準備は終わっていたからだ。しかし中長期的には、多くの課題を抱えている。金正恩氏は28歳といわれているが、優秀だとしても経験は必要だ。経験不足の指導者が、中長期的に問題をどう処理していくのかは大きな問題として挙げられる。
正恩体制が軍事優先の「先軍政治」なら、軍や治安機関と今の体制の関係について注目することが必要だ。正恩氏が父の金正日総書記から継承した連続性が、今の北朝鮮にとっては前提にならざるを得ない。その体制を支えることが軍も治安機関も利益につながる。正恩氏を否定して別の指導者を立てても北朝鮮はまとまらないだろう。
社会主義国家では、党、軍、国家の三つが柱になる。金日成主席時代はこの三つのポストを彼が独占した。正日氏に継承するとき、1980年代の後半から東欧社会主義諸国の大きな変化があって、89年には中国で天安門事件があった。体制を維持するために軍が重要だからと、軍のポストを最初に正日氏に譲った。
ところがその直後、日成氏は死亡した。父親が生きている間に正日氏が得たポストは軍だけ。国家主席は永久欠番になって就かなかった。党の総書記には就いたが、国防委員会の委員長として対外活動を行った。
今回の正恩氏は三つのうちの一つも持っていなかった。だから政治局会議を緊急に開いて、最高司令官という肩書を取って、指示を出しているという状況だ。私も含めて多くの専門家が今回は権力の中心は国防委員会だろうとみていた。北朝鮮関係者と会う機会があって、その点について聞くと、「いや違う。党が軍を指導する。この構図は変わっていない」との答えだった。要するに党が中心で軍がそれに従い、さらに国家を指導するという構図だ。
▽ルールは後付け
正恩氏が後継者になる正当性は、日成氏、正日氏の血脈の継承にある。なぜ三男なのかは正日氏の決断なのだろう。正日氏に代わったときは、ルールにのっとって後継したわけではなく、決まってからさまざまなルールが作られた。
例えば、正日氏のときは一族に伝わる革命指導者としての資質や魂は、長男でなければ受け継ぐことができないといわれた。しかし、それは正日氏のために作った条件であり、次の後継者が決まった段階でルールを後付けで決めればいい。今後、なぜ三男なのかというルール作りが行われるだろう。
今の正恩氏は、準備されたものを粛々とやっている。何か大きな決断、これまでの政策を大きく変化させる決断をしなければいけないときに、果たしてできるか。あるいは集団指導体制で意見が割れたときに、正恩氏がコントロールすることができるか。そういった点で中長期的な安定度を測ることになる。
正恩氏は今後、党総書記の肩書は取るだろう。国防委員会の委員長も取って対外的にも権力者になるのが普通だが、ルールがあったわけではなく、国家主席が“永久欠番”になったように国防委員会委員長を金正日氏の称号にするかもしれない。その場合は対外的なポストを新たにつくるか、あるいは党が国家と軍をコントロールするという考えの下に、党総書記の肩書さえ取っていれば対外的に問題ないと考えるかもしれない。いろいろな可能性を考えておく必要がある。
▽米中に支配的影響力
国際関係での今の焦点は米朝関係だ。北朝鮮がウラン濃縮活動などを一時停止する代わりに、米国が栄養補助食品24万トンを提供することで合意したと発表があった。しかし、内容を見ると、米側と北朝鮮側で具体的な条件にいくつかの違いがある。果たして北朝鮮が核放棄に向けた動きをするかどうかが注目点になってくる。
ここで重要になるのが、朝鮮半島問題にかなりの影響力を持っている中国の役割だ。ただ、中国は保護者的な立場にいるにもかかわらず、結局、米国となのかという思いがあっても不思議ではない。いずれにしても朝鮮半島問題は中国と米国がかなり支配的な影響力を行使する。そして北朝鮮がどういう態度を取るのかによって三者の関係は変わってくるだろう。
今の北朝鮮は、韓国の李明博政権をメーンの交渉相手として位置付けているわけではないようだ。北朝鮮の対外活動は、実はかたくなな部分があって大きくぶれない。むしろ、周りが対応を変えてぶれてしまうところがある。それがまさに韓国と北朝鮮の関係だ。北朝鮮は2000年の第1回南北首脳会談と07年の南北首脳会談の合意を履行せよと言い続けているだけだ。
原則を変えないのが北朝鮮の根本だとしても、日本は拉致問題などで態度を変えてもらわないといけない。正恩体制はまだ本人のリーダーシップが大きく発揮できるような体制ではなく、今までの政策を変えることはできない。北朝鮮の政治が前の指導者の言葉に基づく「遺訓政治」だとすると、日本は遺訓をどう活用していくのかが重要になる。
02年9月の日朝平壌宣言は金正日氏がサインをした文書で、遺訓になる。遺訓を逆に利用して北朝鮮の態度変化を促していくのが日本のやるべきことだろう。ただし単独でやろうと思っても限界がある。6者協議をはじめ、関係国との協力を前提に進める必要がある。

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