トークセッション
◎まず家庭で「食のしつけ」を  おいしい記憶を一緒につくろう

 子どもたちに日本食のすばらしい知恵をどのように伝えていくのか-。3人の講師と東 京小平市で農業を営む小野久枝さんをパネリストに、NPO法人農業情報総合研究所の植 村春香理事長をコーディネーターとして、トークセッションを行った。(敬称略)
トークセッション全景写真

▽生産者の苦労に理解必要
植村氏写真
小泉氏写真
植村春香 「子どもたちに伝えたい食」とは、どういうものがあるか?

小泉幸道 食という字を分解すると、人に良いとなる。つまり人を良くするのが食だ。 まず子どもたちには、食について関心を持ってもらいたい。2つ目は何で食べるのか、お なかがすいたからただ食べるということではなく、食べることの重要性を理解してもらいたい。 次いでおいしさもすべてそこに入っていると思うが、食べる喜びを感じてもらいたい。
さらに食事をするときには、五感を使って味わってほしい。音を聞く、目で見る、に おいをかぐ、口の中に入れたときの触感、それから味だ。この五感で味わって食事をして もらいたい。5つ目は、生産者の苦労を知ってもらいたい。農作物だったら農家の方々、 畜産物だったら畜産業の人、魚だったら漁師さんたち、こういう生産者の人たちの大変さ を理解してもらいたい。もう1つ、一番大事なことだが、朝食を毎日きちんと食べること。 メニューは炭水化物の多いコメ、それから味噌汁でタンパク質、味噌汁の具で野菜などを 補う。さらに魚類や納豆、漬物といったものを加え、これから一日が始まるそのエネルギ ーを補填し、脳の活性化を図るのが望ましい。

小野氏写真
小野久枝 わが家は生産直売、畑で野菜を売っている。今の時期だと20種類ぐらい。で きればお子さんだけでなく、お母さん方にも種をまいて、どういう過程で野菜が育ってい って口まで運ばれるかということを知っていただきたい。虫がついたときには農薬が必要 とか、努力しても天候には勝てないとか、いろんなことを伝える場として今、「学童農園」 をやらせていただいている。子どもたちに食とは何かを伝えながら、子どもを通して親御 さんにも農の現状を知っていただけたらと思っている。


▽家族との触れ合いが重要
柳原氏写真
柳原尚之 まず一番大事なことは、食べることは生きることだということを教えること だ。今の子どもたちは、生まれたときからマクドナルドはあるし、ファミリーレストラン もある。食べることに全く困らない。おなかが減ったなと思えば、コンビニに行って何で も買える。だが食べ物は本来、自分が今、何を食べているかということを意識して食べる ものだと、ただ単にそれこそエサとして食べる食事というのは全然違うのだと教えなけれ ばならない。子どもたちが食材なり、どうやって作るのだろうとか、そういったことにも っと興味を持てば、自然と勉強する気になると思う。


前橋氏写真
前橋健二 複雑ないろんな味があるということを、子どもに知ってほしい。甘ければいい、 しょっぱければいい、脂っこければいい、そういうような安易な味つけ、濃い味つけ というのが、やはり西洋化ということで、日本の食もそうなってきている。そうなると、 もう何がおいしいのかおいしくないのかというのは、よく分からなくなる。味覚は栄養に なるもの、栄養にならないもの、そういったシグナル的な機能を持っているが、今ではも う何もかも甘く味つけして、何が安全なのか、危険なのか、分からないような味つけになっている。 そういう時代だからこそ、子どもたちには、においも含めて、素材の持ってい る特性をもっと理解してほしい。

トークショー全景
植村 食育といった切り口もあると思うが、皆さんはどのように考えているか?

小泉 食生活において、乳幼児から小学生ぐらいが一番重要な時期。土台となるのが家 庭だ。最近では家族そろって食事をする機会が非常に少なくなっている。各自がばらばら のものを食べている家庭が多くなっている。子どもにとって、家族との触れ合いはとても重要な栄養素。 まず家庭があって、その付録に学校があり、地域がある。これらが連携し て食育を支える環境を作る、という流れの中であれば、物事うまく進むのではないか。学 校に任せてしまう、地域に任せてしまうというのではなく、初めの一歩は家庭で何でも教 育していくという姿勢が大事だ。

▽いろいろな種類の食を経験させよう
小野 子どもたちの農業体験にかかわって10年になる。自分たちの収穫したもので漬物を漬けたり、 おでんを作って地域の人たちに配ったり、幼稚園とか保育園とか老人ホームに作った大根を配ったり、 あと給食の時間に自分たちの作った大根で料理をしてもらう。 そうすると、ほかの学年が残したかどうかを、作った子たちは見に行く。やっぱり自分が かかわると、意識が変わるのだなというのがすごく分かる。学童農園に関してしか伝えら れないが、今後もずっとかかわっていきたい1つの食育だと思っている。

柳原 食事をお母さんたちが作ってあげる、それを見て子どもたちが育つ、ということ が大事だと思う。作ることが食べることとイコールになるように、そういうふうに自然と 子どもが育っていくような環境を作るのが大事ではないか。それといろんなもの食べさせ てあげてほしい。「味の座標軸」というのがあって、子どもながら、いろんな味を分類、記 憶している。忘れていても、大人になって出てくるものだということを最近、よく実感す るようになった。子どもたちにはいろいろな種類の食を経験させたい。

前橋 私も、子どものころのおいしい記憶というのは、いつまでも一生どこかに残って いると思う。素材から買ってきて、それを料理している段階で、調理のにおいというのも 記憶に残る。今でも道を夕方歩いていて、どこかの家から調理のにおいがしてくると、子 どものころを懐かしく思い出すことがある。においとおいしさは、母の、家庭の思い出と して残るものだ。外食であっても、家族でおいしさを共有するということでコミュニケー ションが生まれ、心が豊かになる。親はおいしい記憶を一緒に作ってあげたらいいのでは ないかと思う。

植村 子どもたちは、食を通してどういうことを学び、成長していくのか?

小泉 各論はたくさんあるが、子どもたちが生きる上での基本を身につけるのは、やは り食だ。簡潔明瞭ですがそう思います。

小野 食べるものによって、気持ちが穏やかになったり攻撃的になったりする、と聞い たことがある。今はコンビニに行けばいろいろあるが、漠然と選ばず、総菜の中でこれと これとを組み合わせれば、今日の一日、明日にもつながる一日が過ごせるなと考えられる 「食の知識」を身につけていってもらえたら嬉しい。

▽母親にも大人の食育が必要
トークショー全景

柳原 選ぶところから料理で何を作ろうとかいう発想が出てくるから、選ぶことはとて も大事。それに食材を見るということは、料理を上達させるには必ず必要なことだ。築地 の河岸に通っていると、時期によって魚がガラっと変わる。そういったことで季節感を感 じるというのもある。それとお母さんたちが料理をいろいろ覚えてレパートリーを広げな いと、子どもたちの舌が育たない。その人たちが大人になって料理屋に行っても、味がわ からないから料理人が手を抜く。そうすると、技術がだめになるというふうになって、結 局は日本料理全体が下降線をたどってしまう。お母さん方にちゃんとした料理を教えて、 子どもたちが様々な料理を味わえるようにしたい。



前橋 経験が味覚を育てるという話を先ほどした。発酵食品の持つよさは、非常に複雑な味で、 一言で何味と表現できる味ではないことだ。複雑だからこそ、それぞれ地域によって調味料、 また発酵食品の味は違う。家庭でも使う味噌によって味噌汁の味が違う。それが日本料理全体の豊かさにつながっていくと思う。

植村 今や「育メン」なんていう言葉があって、子育てにお父さんが積極的に参加する 動きもある。父母が一緒になって食育にかかわっていくことをどう捉えるか?

小泉 親の食にかかわる責任というのは非常に大きい。1つは子どもの「食のしつけ」。 ご飯を食べるときはちゃんと姿勢よく食べる。残さないで食べなさいと教える。ご飯を食べるときに「いただきます」、 食べ終わったら「ごちそうさま」と言う。ご飯を食べるときに口を結んで食べなさい、くちゃくちゃ音をたてないように。 こういった食に対するしつけは家庭、親の責任だと思う。2つ目は料理を作るときに子どもに手伝わせる。 そうすると、どういう形でこれが料理としてでき上がるのかというのも分かる。それから家族でやはり会話をしながら食事をしてもらいたい。 興味深い調査結果がある。栄養士さんが親に対して食育を勉強してもらいたいなという数値が8割。これに対して母親が私も食育というのは必要かしらと思うのが4割強。 これだけの差がある。お母さん方には食育にもう少し関心を持ってもらいたい。

小野 お母さんたちは、実は作物ができる過程を知らない。落花生の花が咲いて、おり ていくのを見たことがない人がほとんど。だから子どもたちの学童農園よりも、保護者の 学童農園が必要かなと思うことがある。親御さんが知らないから、どうやって伝えていい かが分かっていないのではないか。子どもを通して、親御さん向けにいろんなことを発信 できたらいいなと思う。

▽好き嫌いの判断は子ども自身で
柳原 子どもにできなくてお父さん、お母さん方にできることというのは、僕は情報だ と思う。今、日本は地震、そして原発の問題でこれからもっともっと食、野菜、食材について影響してくるだろう。その中で正しい情報を入手し、またいろんな情報からどれが正 しいのかを考えて食材を選んでいくということが、これからもっともっと大事になってくる。全世界の人口は70億人。あと何十年かすれば90億人になる。 そうなると、必ずと言っていいほど食材は足りなくなる。そういうことで、いいもの、悪いものがだんだん選べなくなるかもしれない。 でも、今のうちに情報を親御さんたちが仕入れて、子どもたちに正しいものを与える。そしてだんだん大きくなっていったら、 一緒に考えながら食材を選んでいくというのが、これからはとても大事になっていくのではないか。

前橋 何がおいしいのか、何が栄養になっているのか、そういった知識はぜひとも親自 身が持っていただきたい。それを子どもに教えてあげる。できればもう1つお願いしたい のは、おいしくないとかまずいということを、子どもに押しつけないでもらいたい。これ はまずいんだと決めつけてしまうと、子どもはそれを学習してしまって、それほどまずい と思わなくても、ちょっと苦みを感じたら、これがまずいんだと記憶してしまう。ますま す好き嫌いができてしまう。できれば子どもの前では表現はやわらかくしてあげて、子ど も自身で好き嫌いを判断できるようになるまで待ってあげる。そういった配慮が必要だと 私は思う。

植村 日本人は食材を大切にして、おいしく食べようと、さまざまな発酵食をつくり出 してきた。子どもたちが自然の恵みに感謝し、命を大切にする心がはぐくまれるように、 食を通して日本人の知恵を伝えていきたい。それにはまず、子どもたちがいろんな食を体 験する機会をつくることが大切。家庭や絆、そういうものをたくさん作っていく必要がある-というご意見をパネリストの皆さんから頂戴した。 参加いただいた皆さんには、正しい情報をたくさん持って帰っていただいて、自分の知り合いの方、お父さん、お母さんにぜひ伝えていただきたい。 そして、そのお話をまた子どもたちにも伝えていっていただきたいと思う。本日はありがとうございました。
   ×         ×            ×
植村春香(うえむら・はるか)氏 大阪府生まれ。NPO法人農業情報総合研究所。2004 年5月からエフエム世田谷「農と言えるニッポン!」で企画、制作、パーソナリティーを 担当。ラジオ番組を通じて農、食、環境についての情報を発信している。

小野久枝(おの・ひさえ)氏 1960年東京都生まれ。家族で野菜・果物農家を営むほか、 「にごりや」ブランドで自家製の漬物、ジャム、シフォンケーキなどを製造。
(了)
 
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